スウェーデンの高級車メーカー、ボルボ・カーが電気自動車(EV)販売で攻勢をかけている。2022年1~6月期はサプライチェーンの混乱などで新車の販売台数は減少したが、EVの販売台数は前年同期の2倍以上に増加。新車全体に占めるEVの割合は前年同期の3%から8%に上昇した。プラグインハイブリッド車(PHV)を含めると、新車に占める割合は3割を超えている。その中で、22年1〜6月期の売上高営業利益率は11.6%と前年同期を上回っている。

 そのボルボの最高経営責任者(CEO)に3月、ダイソン前CEOだったジム・ローウェン氏が就任した。同氏はダイソンでEV事業を率いており、EVの知見が豊富だ。ダイソンCEO時代には日経ビジネスでシリーズ「英ダイソン ローウェンCEOに聞く デザイン×イノベーション」を展開してもらった。

 ボルボは30年にすべての新車をEVにするという戦略を持つ。どう実行に移していくのか。日系メディアとして初めてローウェンCEOに話を聞いた。

ボルボ・カーCEO ジム・ローウェン氏
ボルボ・カーCEO ジム・ローウェン氏
米ブラックベリーなどで約20年以上、製品開発やサプライチェーン構築に従事したのち、2017年に英家電大手ダイソンのCEOに就任しEVプロジェクトを進めた。22年3月より現職

2022年3月にボルボ・カーのCEOに就任しました。EVシフトの戦略について何か変更しましたか。

ジム・ローウェン氏(以下、ローウェン氏):ボルボ・カーは2030年にすべての新車を電気自動車(EV)にすること、中間地点の25年までに50%をEVにすることを目指しています。この戦略は確立されたものです。高い目標ですが、優れた目標だと思います。私が重要だと思うのは、完全電動化を進める最初の自動車メーカーの1つであることを公に宣言したことです。

 ボルボにとって、そこに迷いはありません。投資や雇用、技術、設計などすべてのリソースをEVに費やすことに全力投球しています。EVだけでなく内燃エンジン(ICE)にも適した車を造るという中途半端な決断をすると、設計を一部妥協することになります。ボルボは方向性を明確にできる、将来を見越した戦略を選んだのです。

 こうした戦略は、若い優秀な人材を集めるのにも役立つと考えています。才能あるエンジニアなど若い優秀な人材には、サステナブルな戦略を掲げ、明確な方向性を持った企業で働きたいという意向が強くあります。こうした人材が既に集まってきています。

確かに米テスラのようにEV専業の方が、ICEと両方を造り続けるより、EVを効率的に開発、生産できそうです。

ローウェン氏:EVとICEの双方に使えるプラットホームを作る場合は、(EV一本化より)コストがかさみます。最適化が部分的にしかできません。完全電動化のインフラとプラットホームのみに集中すれば、そうした課題を解決できます。

欧州連合(EU)では35年までに二酸化炭素(CO2)を排出する新車の販売を禁止することが固まりました。ボルボはこの規制を支持してきましたね。

ローウェン氏:それが私たちの戦略に沿った規制であるからです。ボルボの戦略では、35年より前に新車のすべてをEVにするという目標を掲げています。ですので、この規制を支持し、欧州での法案化に賛成するのは当然と言えます。実際、欧州が先駆けとなり世界中の至る所でこの規制が広まってほしいと考えています。

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ウクライナ戦争が始まってから、ニッケルやリチウムなど電池材料の価格が高騰しています。

ローウェン氏:電池などのコスト上昇に対しては、技術改善と量産効果により対応します。化石燃料の価格が上昇し、EVの方がエンジン車より走行距離当たりのエネルギー費用は安くなっており、ユーザーが長くクルマを使うほどこの差は広がるでしょう。

電池コストが上昇する一方でEV価格が同等なら、利益率は低くなる可能性があります。EVの販売価格は上がっていくのでしょうか。

ローウェン氏:それは誰にもわからないと思います。EVとPHVの需要は、ありえないほど高くなっています。特に欧州ではEVへの大きな転換が起きています。

 米国では、海岸沿いの地域でどんどんEVが増えています。内陸にその動きが広まるにはもう少し時間がかかるでしょう。EVが優勢にならない状況は考えにくいのです。そして当然、EV販売が伸びることを証明したテスラなどの企業が注目されています。

ボルボ・カーのEVモデル。22年1〜6月期は前年同期に比べ2倍以上の販売だった
ボルボ・カーのEVモデル。22年1〜6月期は前年同期に比べ2倍以上の販売だった

22年に発表する新型車に自動運転機能を搭載し、米カリフォルニア州からその機能を使えるようにすることを明らかにしています。自動運転の開発はどのような状況ですか。

ローウェン氏:ボルボは自動運転だけでなく、運転支援についても開発を続けています。車の安全性に関わる要素はボルボにとって非常に重要であり、伝統的に大事にしてきました。ボルボは、事故が起きたときに乗客を守るパッシブセーフティーから、アクティブセーフティーに移行しています。つまり、事故の発生をできるだけ防ごうとしているのです。

 当然、これは多面的な開発で、様々な技術が関わります。また、その開発は何度も繰り返すことが必要になります。より高度な運転支援から始め、それを自動運転にも生かします。ただ、現時点でお伝えできる新しいニュースはありません。

ボルボはオンライン販売にも力を入れています。将来的にディーラーの役割はどうなるのでしょうか。

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